相続税・贈与税

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相続時精算課税制度が得かどうかは人それぞれ!選択基準や注意点を紹介

相続税の節税について調べる中で多くの人が目にする制度が、相続時精算課税制度です。「相続時精算課税制度というもので特別控除を受ければ、相続税を節税できる」という考えを持っているかもしれませんが、必ずしもそうとは言い切れません。むしろよく知らずに利用したばかりに損をすることもあり得るのです。そこで、この記事で相続時精算課税制度について説明していきます。

相続時精算課税制度が得かどうかは人それぞれ!選択基準や注意点を紹介

ざっくり説明!「相続時精算課税制度」とは?

相続時精算課税制度とは父母から子、または孫への生前贈与について使用できる制度です。平成15年の税制改正から導入され、若い世代への資産の移転や経済の活性化を図る目的で導入されました。贈与税の基礎控除は110万円ですが、相続時精算課税制度には基礎控除の代わりに2,500万円の特別控除があります。もちろん2,500万円を超えた生前贈与については贈与税がかかりますが、2,500万円はかなり大きく、魅力的です。特別控除の存在を聞くと「相続税で大きく税金が持っていかれるよりは生前贈与をして2,500万円の控除を受けた方が良さそうだ」と感じるかもしれませんが、必ずしも得ではないため、注意する必要があります。なぜなら、この控除された分は後の相続時に相続税を支払う必要があるからです。そのため、税金を先送りしているだけとも言えます。

事前に確認!「相続」と「贈与」

相続時精算課税制度は「相続」と「贈与」両方に関わる制度です。そこで、相続時精算課税制度について説明する前に贈与と相続について改めて整理しておきましょう。

相続とは?相続税とは?

「相続」は人が亡くなった際にその家族に財産が引き継がれることです。遺言書を残せば家族以外に財産を引き継がせることも可能ですが、遺言書を残さなければ法定相続人(民法で定められた財産を引き継ぐ権利がある者)である配偶者(妻や夫)、子どもなどの家族に財産が引き継がれます。そして相続の際は相続税がかかります。相続税の計算は複雑ですが、手順は以下の通りです。正味の遺産(負債を引いたプラスの遺産)額から基礎控除「3,000万円+ 600万円×相続人数」を差し引き、残った額を元に計算をして相続税を算出します。

細かい計算方法は省略しますが、最初の基礎控除に注目してみましょう。この基礎控除「3,000万円+ 600万円×相続人数」の額を遺産額から差し引くため、この額より遺産額が少なければ相続税はゼロとなります。

贈与(暦年贈与)と贈与税とは?うまく活用すれば相続税の節税に

「贈与」は財産を渡す側が生きている場合に行われることで、当事者の一方が自分の財産を無償で相手方に与える行為です。さらに贈与は原則、贈与する側(贈与者)と贈与される側(受贈者)の双方の合意で成立するので、契約行為の一種でもあります。このように当事者の合意だけで成立する契約を諾成契約と言い、口頭でも贈与契約は成立しますが、後のトラブルを防ぐために贈与契約書を作成するのが一般的です。そんな贈与にも様々な種類があり、中には財産を渡す対象が限定されているものもあります。例えば教育資金贈与の場合、贈与の対象が30歳未満の子・孫に限定されています。一方、通常の贈与(暦年贈与)は誰でも贈与の対象となるため、相手が親族でなくても構いません。

相続と同じく贈与にも贈与税という税金がかかります。また、贈与にも基礎控除があり、それを超えなければ納税の必要はありません。通常の贈与の場合、基礎控除は1年間につき110万円で、税率は8段階の累進課税(10~55%)となっています。つまり、長期にかけて110万円を超えない範囲で子や孫に財産を贈与していけば、無税で高額の財産を譲ることが可能です。

相続時精算課税制度を利用した場合の相続までの流れ!税金は?

相続時精算課税制度を利用した場合の一連の流れについて具体例を交えながら解説していきます。まず、子どもが「相続時精算課税制度」を利用して親から贈与を受けると申告します。続いて親が2000万円を子どもに贈与したとしますが、2500万円まで非課税のため、この贈与は無税です。翌年、親が亡くなり、残りの財産を子が相続するとします。この際、昨年親から贈与された2000万円は「財産の中に算入」して相続税を計算しなければいけません。例えば親から相続した財産が5000万円なら、手元の財産5000万円と親から贈与された2000万円を足した、7000万円で相続税を計算する訳です。このように贈与時は2500万円まで非課税になるものの、最終的には相続税が課税されます。相続時精算課税制度が税金の先送りに過ぎないと言えるのはこのためです。

相続時精算課税制度の注意点

相続時精算課税制度は他にも注意すべき点があるので紹介していきます。

一度利用すると二度と取り消せない

まず注意点として挙げられるのが、相続時精算課税制度を一度利用すると、自動継続になってしまい、取り消せない点です。つまり、相続時精算課税制度を利用すると暦年贈与はもう使えないのです。相続時精算課税制度を利用したら、それ以降の贈与は全て相続時精算課税制度の対象になるからです。例えば平成29年に相続時精算課税制度を使って2000万円を贈与したとします。その後、平成30年に再び500万円を贈与した場合、この500万円は相続時精算課税制度での贈与とみなされる訳です。

このように一度、相続時精算課税制度を選択すると贈与者が亡くなる時まで継続して適用され、暦年贈与は二度と使えません。よって、相続時精算課税制度を利用する前に、本当にこの制度で自分は得ができるのかをよく考える必要があります。この制度で得ができる場合もありますが、それについては後述します。

贈与税の年間110万円の基礎控除は使えなくなる

相続時精算課税制度は自動継続となり、暦年贈与が使えなくなってしまうことは先述しました。暦年贈与が使えなくなることによって、贈与税の年間110万円の基礎控除は利用できなくなります。暦年贈与は年間110万円までしか非課税となりませんが、贈与者の財産を直接減らせるので、長期間にわたって贈与を行うことで節税効果が期待できます。例えば5年間に渡り、毎年100万円を非課税で贈与した場合、贈与者の相続財産が500万円減るので、その分相続税が抑えられる訳です。

一方で相続時精算課税制度にて贈与された額は後で相続の際に相続税の対象になります。したがって、節税効果は基本的にありません。それを考えると、単に「年間110万円の贈与税基礎控除を逃した状態で後で相続税として支払う」ということになり、損となります。

相続時精算課税制度を利用すると得になる場合

相続時精算課税制度の注意点を紹介してきましたが、この制度を使って得をする人・方法もあるので説明していきます。

遺産額が基礎控除を下回る場合

相続税には「3,000万円+ 600万円×相続人数」の基礎控除があります。そのため、最終的に遺産総額が基礎控除を下回れば、相続税は発生しません。よって、もし相続時精算課税制度で2000万円を子に贈与し、相続時にその2000万円を遺産額に算入した上で相続税の基礎控除を下回れば、「2000万円の贈与は無税」「相続税もゼロ」となり、大きく得をすることになるのです。例えばAさんが遺産総額3000万円の中から、相続人である子どもに相続時精算課税制度で2000万円生前贈与した場合、贈与後のAさんの遺産額は1000万円になります。この1000万円はAさんの死亡後、子どもに相続されますが、相続税を計算する際は贈与で受け取った2000万円も加えた3000万円で計算します。遺産総額が3000万円なら基礎控除を下回るので、相続税がゼロとなるのです。

相続税の基礎控除額は法定相続人の数で変わります。まずは、相続税の基礎控除を計算し、次に「生前贈与しようとしている額」と「その他の遺産総額」を足して、比べて判断すると良いでしょう。

時価で考えた時に「現時点での相続」が有利な場合

相続時精算課税制度は、生前に無税で贈与した額が相続時に財産総額に算入されて相続税が課税されますが、その際の「額」は「贈与時の時価」であり、相続時のものではありません。例えば贈与時の時価が2000万円の不動産が、相続時に時価2500万円に値上がりした場合、2500万円ではなく2000万円で相続税を計算します。そのため差額分の500万円、節税効果が期待できるのです。一方、贈与時より不動産の時価が値下がりした場合や、会社の業績悪化で保有する株式の価値が下落した場合などは相続税の計算においてマイナスに作用します。よって、不動産や株式を「今贈与した方が、後で相続するより得」と判断される場合、相続時精算課税制度を利用して贈与するというのもひとつのやり方です。

暦年贈与の注意点

相続時精算課税制度だけでなく、暦年贈与(通常の贈与)の方にも注意点があります。こちらもあわせて理解しておくことで、後で税務署から指摘を受けるのを避けられます。では、どのような点に注意すれば良いのでしょうか。

贈与した証拠を残すこと

暦年贈与の基礎控除は年間110万円であるため、無税で贈与したければその範囲を超えてはいけません。年間110万円以内であれば贈与する財産の種類に制限はなく現金や株式でも、貴金属や不動産でも何でも基礎控除の対象となります。ただ、「1年間で110万円を超えない範囲で贈与した」証拠がなければ税務署から疑われる場合があります。税務署から疑われないように現金手渡しは避け、贈与は銀行振込で行い記帳する等して、証拠を残すことが必要です。

また贈与契約書の作成も、税務署へ見せる証拠として有効です。贈与は口頭の約束だけでも有効ですが、贈与した事実を証明するためには贈与契約書が必要となります。特に貴金属・絵画などを贈与する場合は銀行振込を証拠として使えないので、贈与契約書の重要度が増します。ちなみに贈与契約書に決まった形はありませんが、いつ贈与するのか(贈与契約の日付、実際に贈与する日付)、誰から誰に贈与するのか(贈与者・受贈者の氏名・住所)、贈与財産の種類・内容、贈与対象物の引き渡し方法・条件などの事項は明確に記載するのが望ましいです。

毎年同じ金額にしないこと

暦年贈与の基礎控除110万円という金額は、少額に見えるかもしれません。しかし、少額でも長期間にわたって毎年贈与を行うことで、節税効果は大きなものとなります。このように、相続税を減らすために毎年少しずつ贈与していく方法の注意点として、毎年同じ額を支払わないというものがあります。毎年同じ額を贈与していると、「定期贈与契約」を疑われるのです。定期贈与とは毎年一定の金額を贈与することが決まっている贈与のことです。例えば、「毎年100万円ずつ10年間にわたって贈与する」という贈与は定期贈与契約になります。そして「定期贈与契約」と見なされると課税対象になるのです。それを避けるために、同額の振込を避け、そしてそれを証拠としてしっかり残すことが重要です。

相続時精算課税制度の詳細

相続時精算課税制度の流れや暦年贈与との違い、注意点を説明してきました。ここで、相続時精算課税制度を活用したい人のために、さらに詳細を紹介していきます。

対象者

贈与が誰にでもできるものであるのに対し、相続時精算課税制度は対象者が限られます。まず、贈与者は60歳以上の両親または祖父母であることが必要です。そして受贈者は推定相続人(代襲相続人含む)である20歳以上の子または20歳以上の孫であることも条件です。2015年に法改正され、上記の条件となりました。ちなみに推定相続人とは相続が開始する前の、ある時点において、その時に相続が開始された場合に最優先順位の相続権を持っている人のことです。法定相続人は相続開始後に確定するため基本的に変わることはありませんが、推定相続人は相続が開始される前の段階で相続人だと推定される人なので実際に相続する人が変わる可能性があります。例えば、被相続人の推定相続人である子どもが相続が開始する前に亡くなった場合、代襲相続人(本来の相続人に代わって相続する人)である孫が新たな推定相続人へと変わる訳です。

手続き方法

相続時精算課税制度の利用を始める方法ですが、まず贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までに相続時精算課税選択届出書を提出する必要があります。こちらは国税庁のホームページで入手することが可能です。上記の期間内に相続時精算課税選択届出書を提出しなかった場合、暦年贈与とされてしまうので注意が必要です。提出時に必要な書類としては、受贈者と贈与者の「戸籍謄本」や「住民票」等が挙げられます。また、相続時精算課税選択届出書を提出した翌年以降は、110万円以下の少額の贈与であってもすべて贈与税の申告手続きが必要です。ただし翌年以降は、選択届出書や戸籍謄本や住民票などの証明書の提出が不要となります。

必ずお得とは限らない!自分の有利になる方を選ぼう!

相続時精算課税制度は誰でも必ずお得になるというわけではないので、自分の場合はどうか、よく検討する必要があります。相続時精算課税制度に限らず、相続や贈与の制度は複雑で「こうすればお得」とうわさを聞いてその通りにしても、かえって損をする可能性があるため難しいものです。もし相続について悩みや不安があれば、税理士に相談してみることをおすすめします。

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